専門の医療機関で精密検査を行い、治療が必要と判定された場合のみ行うことができます。
どのような場合、検査が必要かを述べます。


  1. 何センチ以下が心配か


  2. 低身長のめやす(-2.0SD):この基準以下が低身長


  3. 低身長のめやす(-2.5SD):この基準を下回ると、かなり低く、精密検査が必要です


  4. 低身長の原因にはどんなものがあるか


  5. 成長ホルモンで治療できる低身長


  6. 成長ホルモン分泌不全性低身長症とは


  7. ターナー症候群とは


  8. 軟骨異栄養症とは


  9. 慢性腎不全とは


  10. プラダー・ウイリー症候群とは


  11. 身長が低いお子さんの場合、次のような手順で検査します


  12. 手のレントゲン写真で骨年齢を知るのが大切


  13. 頭部レントゲン撮影やMRI-CTで脳下垂体に異常がないか確認することも必要です


  14. 成長ホルモン治療の実際


  15. 治療効果






    1. 何センチ以下が心配か

    医学的に低身長とは、同年齢の集団内比較で平均値−2.0SD(SD=標準偏差)以下の身長を指します。
    簡単にいえば、同年齢の健康児童が100人いた場合、低いほうから数えて、2番目のあたりまでを言います。
    低身長のおおまかなめやすを表に示しました。
    正確なめやすは、男女別の基準成長曲線に照らし合わせて行います。
    しかし、病気があっても身長が−2.0SD以下となるには、ある程度の期間を要するため、
    現在の身長のみではなく身長増加の経過が重要です。
    したがって、成長曲線の作成が診断の第1歩であり、これのみでも低身長の原因をある程度診断できます。



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    2. 低身長のめやす(-2.0SD);この基準以下が低身長

      3歳 3歳半 4歳 4歳半 5歳 5歳半 6歳 6歳半
    女児 84.3 87.9 91.0 94.5 97.8 100.5 103.5 106.0
    男児 86.0 89.2 92.2 95.2 97.8 100.6 103.7 106.7
      7歳 7歳半 8歳 8歳半 9歳 9歳半 10歳 10歳半
    女児 108.8 111.5 113.8 116.3 118.7 121.1 123.9 126.7
    男児 109.4 112.3 114.7 117.1 119.7 122.2 124.6 126.9
      11歳 11歳半 12歳 12歳半 13歳 13歳半 14歳 14歳半
    女児 130.3 133.7 137.0 140.3 142.2 144.3 145.2 146.2
    男児 129.0 131.1 133.9 136.7 140.7 144.6 148.6 152.5



    3. 低身長のめやす(-2.5SD);この基準を下回ると、かなり低く、精密検査が必要です

      3歳 3歳半 4歳 4歳半 5歳 5歳半 6歳 6歳半
    女児 82.4 86.0 88.9 92.4 95.7 98.4 101.3 103.6
    男児 84.2 87.3 90.2 93.1 95.6 98.3 101.3 104.2
      7歳 7歳半 8歳 8歳半 9歳 9歳半 10歳 10歳半
    女児 106.3 109.0 111.1 113.5 115.8 118.0 120.7 123.3
    男児 106.9 109.8 112.1 114.4 116.9 119.4 121.7 123.9
      11歳 11歳半 12歳 12歳半 13歳 13歳半 14歳 14歳半
    女児 127.0 130.4 133.9 137.4 139.4 141.6 142.5 143.6
    男児 125.7 127.6 130.1 132.7 136.8 140.8 145.1 149.3






    4. 低身長の原因にはどんなものがあるか

    低身長の主な原因には以下のものがあります。

    (1)体質性小人症
     これは体質的なもので病気ではありません。遺伝的な場合も多く、治療の必要はありません。

    (2)思春期遅発症
     いわゆる、“おくて”で、思春期の発来が遅れます。最終的には正常身長に達します。よく高校になって急に伸びたという人がいますが、それがこのタイプです。ふつう治療は必要ありません。

    (3)思春期早発症
     思春期が、あまりに早すぎると、あっという間に大人になってしまい、身長が伸びなくなります。思春期を遅らせる治療をします。

    (4)染色体の病気
     染色体の病気であるターナー症候群では、成長ホルモン投与が有効な場合もあります。

    (5)骨の病気
     軟骨異栄養症では、極端な低身長になります。成長ホルモンの投与が認められており、ある程度の効果 があります。

    (6)ホルモンの病気
     成長ホルモンの分泌不全に基づく成長ホルモン分泌不全性低身長症や甲状腺ホルモンの分泌不全による甲状腺機能低下症などがあります。

    (7)心理社会的原因
     愛情遮断症候群など。社会の複雑化、家庭の崩壊などのため増加しています。精神的な影響で身長が伸びない場合は、成長ホルモンを注射しても無効です。

    (8)内臓の病気
     慢性腎不全(腎臓の病気で尿がうまくつくられない)のお子さんは、身長の伸びが悪くなります。成長ホルモンの投与が認められています。

    (9)その他の病気
     プラダー・ウイリー症候群では、成長ホルモン投与が有効な場合もあります。







    5. 成長ホルモンで治療できる低身長

    成長ホルモンで治療できる低身長には以下のものがあります。

    (1)成長ホルモン分泌不全性低身長

    (2)ターナー症候群

    (3)軟骨異栄養症

    (4)慢性腎不全

    (5)プラダー・ウイリー症候群
     




    6. 成長ホルモン分泌不全低身長症とは

    成長ホルモン分泌不全性低身長症(下垂体性小人症)は、
    脳下垂体から分泌される成長ホルモンの分泌が障害されているために、
    身長の増加に異常をきたす病気であり、
    放置すると、身長が130cm程度で止まってしまうこともあります。
    成長ホルモン分泌不全性低身長症の小児は知能は正常で、また、
    体の均整がとれているため、背が低く幼いこと以外は他の小児と異なりません。





    7.ターナー症候群とは

     ターナー症候群は染色体の中のX染色体でのトラブルなので、女性だけに起こる病気です。
    低身長、二次性徴欠如(乳房が大きくならない、初潮が来ない)、外反肘(上腕に比べて前腕が外側を向く)、翼状頸(頸部両側にひだ状の皮膚がある)などの症状を認めます。
     放置すると低身長は140cmに達しないことが多いです。



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    . 軟骨異栄養症とは

     軟骨異栄養症とは軟骨の異常のため、骨の縦方向への伸びが悪くなり、胴体に比べて手足(上下肢)が短くなります。
     かなりの低身長で、成人に達しても130cmもしくはそれ以下のことも多いようです。




    9. 慢性腎不全とは

     慢性腎不全とは慢性に経過し不可逆的に進行する腎機能不全です。
    原因疾患の中で多いものは、腎低形成・異形成など先天性のものが多いのが特徴です。
    また、小児慢性腎不全の初期には、低身長、頻尿、発熱、貧血の主訴により発見されることもあります。


    10. プラダー・ウイリー症候群とは

     プラダー・ウイリー症候群とは第15番染色体が関与する先天性遺伝疾患で、幼児期の筋緊張低下、幼児期以降の肥満、知的障害、低身長、性腺発育不全などの症状を認めます。



    11.身長が低いお子さんの場合、次のような手順で検査します

    検査の手順【1】

    スクリーニング検査=病気の有無のおおまかなメドをたてます。
    1.過去の身長・体重のデータをグラフにします
    2.骨のレントゲン写真

    3.基本的血液検査(内臓の病気の有無、貧血有無、ソマトメジンC、甲状腺ホルモンなど)


    検査の手順【2】  (上記手順1で成長ホルモンの病気の可能性がある場合)

    成長ホルモン分泌負荷試験=成長ホルモン注射が必要かどうかを判断するための検査



    スクリーニング検査=まず最初にする検査



    (1)成長曲線作成 (2)手根骨レントゲン写真 (3)基本的血液検査
    骨の発育度合いが分かります。

    ・貧血の有無
    ・肝機能
    ・甲状腺機能
    ・ソマトメジンC



    成長ホルモンの分泌に問題がありそうな場合は
    成長ホルモン分泌負荷試験を行う。




    成長ホルモン分泌負荷試験

    アルギニン


    L・ドーパ


    クロニジン

     


    12. 手のレントゲン写真で骨年齢を知るのが大切

     左手のレントゲン写真を撮り、Greulich & Pyleのアトラス(男女別、年齢別の手根骨のサンプル集)と照合して判定する方法が、従来、一般 的でした。
      最近では、Tanner-Whitehouse-2(TW2)に基づいた日本人標準骨年齢を用いるのが、望ましいとされています。これにより、暦年齢(実際の年齢)とは別 の骨年齢(生物学的年齢)を求めます。
      また現在の身長が、どの年齢の身長の平均値にあたるかにより、身長年齢を求めます。
      正常児では、当然、暦年齢≒骨年齢≒身長年齢となります。




    13. 頭部レントゲン撮影やMRI-CT で脳下垂体に異常がないか確認することも必要です

     下垂体周辺、トルコ鞍の異常の有無を確認します。
    脳腫瘍等が疑われる場合は頭部MRI-CTが必要です。





    14.  成長ホルモン治療の実際

    1)成長ホルモン治療開始の時期
     成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療は、早期診断、早期治療開始が原則です。低年齢の子どもでは、注射が強い精神的ストレスになる可能性がありますので、注意が必要です。ただし、注射器の改良が進み、針も極めて細くなったので、注射の痛みによるストレスは、少なくなっています。軽症例では、小学校3、4年で治療を開始しても、平均身長に達する場合もありますが、重症例では、もっと早く、治療を開始するべきです。

    2)成長ホルモン治療中止の時期
     骨年齢が男子17歳以上、女子15歳以上になると、治療効果がほぼなくなると考えられるので、治療を中止します。つまり、この時期になると、骨端線(成長線)が閉鎖し、これ以上骨が伸びなくなるのです。また、それ以前でも、身長が十分に伸びた場合も治療を中止します。

    3)誰が、いつ注射するのか
     成長ホルモン製剤は、在宅注射が認められているので、現在は、ほとんどの場合、自宅で、自己注射を行っています。小さい子どもの場合は、親などの保護者が行なうのが一般 的です。病院では、保護者に皮下注射の打ち方を最初に指導します。注射は通常、夜間に行います。これは、成長ホルモンが、夜間睡眠中に多く分泌される点から考えて、生理的にも、いちばん適時とされているからです。  注射は、皮下注射です。注射できる場所は、臀部、大腿部、上腕部などです。親が子どもに注射をするときは、一般 的には臀部ですが、坐骨神経がある下部は避けたほうがよいでしょう。本人が自分自身で注射を打つときは、大腿部に打ちます。

    4)注射の苦痛の軽減
     注射の苦痛を軽減するためには、痛みの少ない注射法の指導は欠かせません。皮下注射は針の刺入、薬の注入および抜針の3つの段階がありますが、針の刺入は速やかに手ぶれなく行います。薬の注入の時、手ぶれに気をつけます。抜針は、刺入された角度で行い、手をこねないよう注意します。また、注射に対する精神的サポートも必要で、家族全員が温かく見守ってあげることが大切です。母親が注射をしている場合でも、母子だけで治療を行うのではなく、父親も“がんばっているね”と声ぐらいはかけてあげてほしいですね。

    5)定期検診の内容
     注射がきちんと行なわれているかどうかを、問診し、身長、体重の測定を行います。年に1〜2回は、骨年齢を見るために、レントゲン検査を行います。 治療開始当初は、毎月、その後は3か月ごとに、尿検査、血液検査、一般生化学検査、ホルモンの検査などの検査を行います。これらの検査は、副作用の早期発見や治療効果 の確認などのために行なわれます。

     



    15. 治療効果


    成長ホルモン治療が開始されてからの1〜2年間は特に大きな効果を示す場合が多く、これをキャッチアップグロース(追いつき現象)と呼びます。成長ホルモン分泌不全の程度が強い子どもほど、このキャッチアップグロースが大きいようです。身長の伸び(身長増加率)は、元々の伸びの倍近くになります。治療を必要とするようなケースでは、治療前の身長増加率は3〜5cm程度ですが、成長ホルモン注射により、身長増加率は7〜12cm程度になるわけです。